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子母澤寛の新刊

 仕事やら英語の勉強やらに追われ、更新しないままあっという間に数ヶ月。今日の昼休みに職場近くの本屋へ行ったら、子母澤寛の新刊が出ていたので嬉しくなり、つい更新。

 子母澤寛は僕の好きな作家の1人で、初期の股旅物以外の作品は大体読んでいる。明治25年生まれで昭和43年には亡くなっているので、新刊で手に入る本は作品数に比べてとても少ない。でも2004年の大河ドラマで新撰組が取り上げられたおかげで、新撰組三部作が売れたためだろうか、中公文庫から『ふところ手帳』や『遺臣伝』が相次いで復刊され、今度は新編集の『雨の音』が発売された。ともかくファンとしては嬉しいかぎりである。

 僕が子母澤寛を好きな理由のひとつは、その聞き書きのスタイルにある。その極致は『味覚極楽』(中公文庫)で、昭和初期の各界著名人の食に関するうんちくが、各自の口から語られる。東大法学部を出て虎屋に婿入りし、厚生大臣になった黒川光景、新宿中村屋のカレーを作ったインド独立運動のボースなど、興味深い人物が登場する。今に残る名店も紹介されているが、多くの店はすでにない。僕の勤めている職場のビルは、この本でも出てくる著名な中華料理店だったそうだが、今は名を残すのみである。

 どこどこの店がうまいという話も面白いが、語り手の素朴な食事の好みがたまらなくうまそうに思える。増上寺の道重大僧正(うわさによるとモーニング娘。メンバーの縁者とか)の話を聞くと、冷や飯を熱いみそ汁とともに食べてみたくなる。

 飯じゃがね、これはつめたいに限る。たきたてのあたたかいのは、第一からだに悪いし歯にもよくないし、おまけに飯そのものの味もないのじゃ。本当の飯の味が知りたいなら、冬少しこごっている位の冷や飯へ水をかけて、ゆっくりゆっくりと沢庵で食べてみることじゃ、この味は恐らくわしのような坊主でなくては知るまいが、うまいものじゃ。
 
 子母澤寛の幕末物は、聞き書きを下敷きにしたものが多い。新撰組三部作は、ちまたの新撰組物のネタ本だが、司馬遼太郎は対談で開口一番、「子母澤先生の『新撰組始末記』がどうしても越えられない」と吐露している(子母澤寛全集25巻所収)。創作が多いとの批判もあるが、僕はそれでいいと考えている。文書の歴史から永遠にこぼれてしまうはずだったもの、その断片が垣間見えるからこそロマンがかき立てられるのだろう。

 子母澤寛が訪れた冬の飯岡はうら寂しく、宿の食事も貧相ですっかり気分が暗くなってしまったが、宿のおやじに、盲目で滅法腕の立つ市という男の話を聞いているうちに一晩が過ぎてしまった。この一夜がなければ、有名な座頭市物語は誕生しなかったし、誰もそんな人間がいたことなど覚えていないだろう。

 書き出すときりがなくて、もっと書きたいこともたくさんある。波瀾万丈な自伝(『曲がりかど人生』『二丁目の角の物語』)は文庫になっていないので、読んだことのある人は少ないかもしれないが、とても面白い。またいつかの機会に。



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テーマ : 読書メモ
ジャンル : 本・雑誌

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子母澤寛さんの語り口によって、食べ物がおいしそうになるように

けんちょんの語り口によってその本が読みたくなりますな。

とりあえず、お買い上げしました。

わたしの側には、読みたい本、人として読んでおかなければならない本がたくさんあるのですが・・・・

そういや、初期の村上春樹の作品では登場人物がやたらとビールを飲むので
当時読んでいてやけにビールが飲みたくなったのをおもいだしました。

 ありがとうございます。自分の紹介した本を読んでみようと思ってくれるのはとてもうれしいです。『ふところ手帖』を2冊持っているので、今度会ったときにでも差し上げます(古本でぼろいですが)。

 村上春樹では、アトス修道院でウゾと一緒に出される菓子をうまそうだと思った記憶があります。そば屋でビールなんていうのもありましたね。僕はそば屋では日本酒が飲みたくなりますが。

 関係ないけど、森鴎外の『渋江抽斎
』に出てくる「鰻酒」というのをいつか試したいと長年思っています。

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